11.01.2009

兎と島と鱒二

井伏鱒二の書いた『シグレ島叙景』という作品は、シグレ島という小さな無人島を舞台に(正確に言えば、島の横に停泊している帆柱の折れた錆びた汽船を舞台に、そう、ほんとうに【舞台】なのだ)、そこに住む2人の男女のひねくれた関係が「わたし」とのユーモラスな会話の中で次第に明らかになっていくおもしろさが見所の短編で、シグレ島には野兎と家兎合わせて400匹ものうさぎが放し飼いにしてあるという設定が前から気になっていた。
これを読んだときにふと思い出したのが大久野島とうさぎ(大久野島は戦時中毒ガスを製造していた島で、今ではうさぎの島として有名。島内にはその関連施設跡も残っていて、廃墟好きにも関心をもたれている)。しかも、井伏さんは広島県福山市出身だし。もしかして、シグレ島の舞台は・・・?とも思ったけど、調べてみると、この作品が発表された昭和初期にちょうど大久野島では毒ガス施設が建設され始めたようで、数百匹のうさぎが島内を跳ねていたとは考えにくそう。
今では、彼らは森の中や施設跡の中、国民宿舎周辺を元気に跳ね回っていて、『シグレ島叙景』の舞台にはぴったりだなあと思う。もちろん、国民宿舎があるし、無人島ではないけれど。

9月に大久野島に行ってきた。自転車を借りて島をサイクリング。 1周40分前後の道のり。
国民宿舎のフロントでうさぎのえさを1袋100円で販売しているので、買ってみた。うさぎがぱらぱらいるところであげると、それをめがけて次々集まってくる。かわいい。棟方志功によく似た風貌の作務衣に丸メガネのおじさんが側にやってきて、にんじんの皮のようなものを投げ出したので話を聞いてみると、よく来ている人のようで、自宅で干した野菜を持ってきているのだとか。子うさぎを抱っこできたと嬉しそうだった。確かに子うさぎはほんとにちっちゃくてかわいい!誰かさんは、あるネズミ色のうさぎを見て、かわいがっている猫によく似ていると言っていたけど、うさぎはうさぎです。
子うさぎには最後まで触れなかった。えさに群がる大人のうさぎをちょっと撫でただけ。やわらかい。島内にいるという300匹のうさぎのうち、どれくらいを目にできたのかしら。
この日も暑くて、最初は陽射しを気にしていたけど、勾配のある坂道が始まるとどうでもよくなった。

海水浴場がオープンしている頃でなくても、まだ夏のにおいや色が残っているときに来たい場所。





今日のメモ
・ カムジャタンとスンドゥブにはまる。コリアンタウンなのねー
・「ナボコフの一ダース」細部の記憶のきらめきが美。この人の写真論読んでみたい